肥満とは
「肥満」は「やせ」の反対です。
両者の違いを簡単にいうと、「からだに脂肪がたくさん付いているか、少ししか付いていないか」ということ。
ポイントは脂肪の量の差です。
では、その脂肪はなんなのためにあるかというと、エネルギーを蓄えるためです。
ヒトという動物が地球上に現れてから数百万年たつそうですが、その長い歴史の大半は飢えとの闘いでした。
食べる物が手に入らなくてもすぐには死なないように、食べた物を脂肪というかたちで貯蓄できるように進化してきたのです。
肥満の判定基準
肥満を医学的に判断するには
「BMI(Body Mass Index.体格指数)」
という基準が使われます。
体重と身長を次の式に当てはめると簡単に計算できます。
[BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)]
例えば体重が70kgで身長が170cmなら、70÷1.7÷1.7で、答えは24.22。
BMIは24.2です。
BMIの基準値は18.5以上25未満で、25以上の場合は「肥満」と判定されます。
肥満が関係している主な生活習慣病
糖尿病
症状・経過
身体活動のエネルギー源であるブドウ糖は、血流に乗って全身の細胞に配られています。
そのブドウ糖が細胞に入りにくくなる病気が糖尿病です。
その結果、血液中のブドウ糖の濃度「血糖値」が、高くなります。
血糖値が高いときを除いて、自覚症状はありませんが、放置していると、目や腎臓や神経に障害が起きたり、動脈硬化が速く進みます。
肥満との関係
ブドウ糖が血液中から細胞に入るときに必要な「インスリン」というホルモンの働きが、肥満(特に内臓脂肪型肥満)によって弱くなるため、血糖値が高くなりやすくなります。
BMIが27になると、糖尿病の危険が2倍になります。
脂質異常症(高脂血症)
症状・経過
細胞膜やホルモンの材料として、あるいはエネルギー源として使われる脂肪分が過剰に作られ、その血中濃度である「血清脂質(コレステロールや中性脂肪)」が高くなる病気です。
自覚症状はありませんが、放置していると動脈硬化が速く進みます。
肥満との関係
肥満(特に内臓脂肪型肥満)は脂肪が過剰にたまっている状態ですので、血液中に供給される脂肪の量も増えます。
BMIが25で高中性脂肪血症の危険が2倍に、BMIが29で高コレステロール血症の危険が2倍になるという調査もあります。
高尿酸血症・痛風
症状・経過
血液中の尿酸値が高くなる病気です。尿酸値が高い状態がしばらく続いていると痛風の発作が現れるようになります。
ただし大半の方は無症状です。
しかし痛風発作が起きなくても、腎臓の働きが徐々に低下してきますし、尿路結石ができやすくなります。
また、高尿酸血症の方は、動脈硬化が進みやすい状態にあります。
肥満との関係
肥満と高尿酸血症には強い関連性があることがわかっています。
尿酸の前駆体であるプリン体はほとんどすべての食品中に含まれているため、過食により尿酸が体内へ過剰に取り込まれる事になります。
とりわけ肥満者は動物の肉や内臓、魚の白子などプリン体を多く含む食品を好んで摂ることもあり、高尿酸血症をきたしやすくなります。
メタボリックシンドローム
症状・経過
内臓脂肪型肥満によって、血糖値や血清脂質、血圧など複数の検査値に異常が現れている状態です。
それらの異常はすべて動脈硬化を促す原因ですが、一つ一つ個別にみれば軽度の異常にすぎず、それぞれの病気の診断基準に至らないことが少なくありません。
自覚症状もありません。
しかし放置していると、動脈硬化が速く進んでしまいます。
動脈硬化
症状・経過
動脈の血管壁にコレステロールなどがたまり血管が硬くなって、血液が流れるスペースが狭くなる病気です。
自覚症状に現れずに進行し、血流が強く妨げられるようになると、そこから先の部分に痛みが生じたり、虚血性心疾患や脳梗塞を引き起こします。
また、高血圧の原因でもあります。
ここまで挙げてきた、肥満に基づく生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームなど)はすべて、動脈硬化の進行を早める病気です。
虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)
症状・経過
心臓血管の動脈硬化のために、心臓の筋肉が虚血になる(必要な血液を得られなくなる)病気で、胸痛発作が起こります。
虚血が一時的で心臓にダメージを残さず改善する場合が「狭心症」、虚血の程度が重度で発作後に心臓の筋肉に支障が残ってしまう場合が「心筋梗塞」です。
脳梗塞
症状・経過
脳が虚血になる病気で、からだの麻痺などが現れます。
脳の血管の動脈硬化で起きる場合と、脳以外(心臓血栓など)の血管にできていた血の塊(血栓)が剝がれて脳に運ばれ血流をふさいで起こる場合があります。
その他
脂肪肝
肝臓に脂肪が過剰にたまる病気です。
自覚症状はありませんが、糖尿病や高脂血症など、複数の生活習慣病を起こりやすくします。
近年、肥満の人はアルコールをあまり飲まなくても脂肪肝になりやすく、その場合、肝臓の働きが悪化しやすいケースがあることが注目されています。
肥満による生活習慣病の予防と治療
肥満による生活習慣病治療の基本は「減量」です。
減量せずに薬を服用しても、限られた効果しか得られませんし、副作用が現れやすくなることもあります。
減量、あるいはダイエットというと、多くの人がスリムな体型をめざして食事の量を極端に減らしたり、激しい運動を余分に課したりします。
しかし、肥満症、生活習慣病治療の場合、わずかな減量、わずかなウエスト径の減少でも、検査値に驚くほどの効果が現れることが少なくありません。
そのため日本肥満学会では、まずは3kgの減量、3cmのウエスト径減少をめざすという「サンサン運動」を提唱しています。
このくらいの目標なら、必死にならなくても実現可能です。
間食をやめる、清涼飲料水をノンカロリーのものに変える、食事は腹八分目、通勤や買い物の際にわざと少し多めに歩く、エスカレーターを使わない、そんなちょっとした工夫の積み重ねが有効です。